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週末事変

あれはパリに越してきて3年目の夏だった。

長女はオックスフォードのIBコースに3週間行ってしまうし、夫は長期出張。
残された私と次女は、何処に行くわけでもない、けだるい夏休みを送っていた。

アパルトモンはホリデーでがらんとしていた。

ある土曜日の朝、いつものようにトフィーと散歩。
すると、ガルディアン(管理人)が部屋から私を呼び止める。

「このビン、あなたのですか?」と。

見ると、なにやら訳の分からない日本食の空きビン。
その中に、砂と吸殻が入っている。

「いいえ、私のじゃないですよ。こう言うへんな日本食、私達は食べないし。
 夫はタバコをキッチンでしか吸わないしね。」

その時は、ふ~ん、って感じで終わった。

これが、事の始まりだった。

次の土曜日の朝、また呼び止められる。
今度は、恐ろしいほど安っちいプラスティックの大皿。

「私のじゃありません。」と答える。

そのまた次の土曜日。
今度は、これがまた大きなフライパン。
あなたのですか?って。

なんでフライパン?
さすがの私も、不思議に思って聞いてみた。

すると、毎週土曜日の朝になると、庭になにやら落ちていると言う。
彼らの家は、丁度私達の部屋の真下にあたる一階。小さいながらも庭がついている。

これまで、聞かれたのは3回だが、それまでにも、封の開けられてない
大きいケーキがそのまま落ちてたり、お菓子が落ちていたりしたと言う。

そりゃ、気持ちが悪いわねー、と言った後、はたと気がついた。
こいつ、私達を疑ってるなって。

すっごい嫌な気分。

ちょっと待ってよ、私達じゃないわよ、と訴えた。
勿論疑っちゃぁいないよ、とは言ってたが、どうなんだか、、、。

その後も、まだまだ続いた。

ガルディアンの私達への疑いはとうとうピークに。

その週は、私達と彼の家の側面に接している家の人のニ家族だけが残っていた。
彼は、直ぐ上に住む私達しか考えられなかった。

「なにもベランダからだけじゃないじゃない、ものを落とせるのはッ!
 あの人たちだって窓があるんだから、ものを落とそうと思ったらできるじゃない。」と反論。

それだけじゃない、と彼。
なによっ!
今度は、こんなものが落ちていた、と言って夫の名刺を差し出した。

確かに、夫のだ。だけど、前に袋に入れてゴミ箱に棄てたもの。
犯人が拾って落としたんだろう。

こっちの不愉快もピークに達した。
その後はなだれのように喋ってた。

はぁ?!私達はあなたに対して感謝こそすれ、これっぽっちも恨んじゃいないわよ。 
それに、犯人が自分の名刺をわざわざ落とすなんて、ありえないじゃないっ。
ちょっと考えれば分かるんじゃないのッ!
今まで見せてもらった落し物、言わせてもらえば、あんな安っちいもの、今までの人生で
持ったこともないわよっ!
ふざけんじゃないわよっっ!!

気がついたら、ホロッと涙が出ていた。
わざわざ夫の名刺を落とす奴がいるって事は、一種のいやがらせ。
そういうのが、同じアパルトモンにいるのか、と思ったらつい。

さすがの彼も私を傷つけたと思ったのか、その後、何も言ってこなくなった。

数週間後の土曜日。
朝、彼にあって思わず聞いた。

「今日はウィークエンド・プレゼントは受取ったの?」

そしたら彼。
「先週、ナイフが数本庭に突き刺さってたんだよ。
 警察に通報して来て貰ったんだけど、なんにもしてくれなかったんだよ。」
と、途方にくれたように、私に愚痴った。

もう私達を疑ってる感はない。

さすがにナイフはひどいよね、と同情した。
それを境に、どう言う訳か、この悪質ないたずらはなくなった。
ナイフが犯人のフィナーレだったって事?

あれは一体なんだったんだろう。
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by suzume-no-oyado | 2006-07-23 19:00 | 暮らし | Comments(2)
Commented by むつこ at 2006-07-25 21:34 x
うわあ、ドキドキしながら読みすすみ、いつ楽しいオチがと思っていたら・・・まるでホラー。管理人さんもお宿さんもストレスフルだっただろうなあと思います。私も泣きます。私、アパートに戻ってキッチンに煙草の吸殻を見つけただけで大騒ぎしました。そのときも頭をかすめたのは「アジア人だから?」ってこと。でも名刺ってのは怖すぎです。さらにナイフなんて。でも一番怖いのは何にもしてくれない警察かなあ。
Commented by suzume-no-oyado at 2006-07-26 03:48
そうです、むつこさん。こっちの警察なんて、働いてるって感じしませんもん。特にこそ泥に関しては、報告を書き留めるだけで終わりですから。
捜査って言葉は彼らの辞書にはないでしょう。
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