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愛を誘うベジタブル

最後のスキーの後、長女がロンドンに帰り、次女がイギリスに遊びに行った。

突然、ポツンとひとり残された。
寂しい? とんでもございません。羽を思い切り広げ、この世の春♪
忘れずに、その夜既に予定を入れておきましたとも。

PRETEXTE GOURMAND 「美食の口実」とでも言いましょうか、そんな名の会合に参加。場所は、オペラの Le Drouant。最初はタバコ屋だったのが、ビストロ・カフェになり、いまや星付きレストランにまでなったというところ。

そのレストランが有名なのは、もうひとつの理由かある。
フランスの有名文学賞・ゴンクール賞の審査がそこで行なわれるからだそう。
その昔、小説家で歴史家のゴンクール兄弟がいて、兄が死に際にこの賞を提案したという。その時の条件が、毎週火曜日に10人の審査員がこのレストランに集まり、食事をしながら文学の話をして、その年の受賞者を決めるというもの。
「文学と食事は双子の兄弟のようなもの」だそうだ。
そう言われても、う~んと唸るだけの私だが、、、。

夜8時。レストランに到着。
通常のレストランではなく、2階の個室に通される。その個室は、普通は使わせてもらえない部屋だと。そうなんです。その部屋とは、権威あるゴンクール賞の審査員が集うスペシャルルーム。

集まった人は、これも審査員と同数の10人。
企画者のフランス人女性ひとりとあとは全員日本人。
通訳の日本人を始め、駐在の会社員、MBA取得中の女性、ジャーナリスト、主婦と様々。
大きな丸いテーブルに座り、会が始まった。

キール・ロワイヤルと2、3種類のアミュゼ・ブッシュが振舞われたあと、ゴンクール賞の説明。

「この部屋は、幽霊が出るんです。」と、最初の言葉。
幽霊好きの私は興味津々。

「・・・と、私は感じます」って、なんだ、貴方が勝手に感じているだけなのね。
歴代の文芸家が集うこの部屋に、彼らの息吹を感じられるって、そういう事らしい。
なんだ、つまらない。出ないのか、、、。

そろそろ、スターターかな?
あ、次のお話が始まってしまった。 まだ、お預けなのね。

マナーのお話。

かなり昔から、ナイフとフォークが使われているのかと思っていたら、そうではなかった。
この優雅なフランスでも、16世紀ごろまでは、手づかみで食べていた。
その頃のマナーは「お皿の上についているものは、猫のように舐める事」だって。

へぇ~!x 3!  トリビアである。

食事も今のものとは違い、かなり質素だった。
そこで登場はイタリア・メディチ家のカテリーナ。
16世紀にフランスに嫁いだ際に、食材とマナー(ナイフ・フォーク・ナプキン等)をフランスに伝えたとされている。だから、フレンチはイタリアンが元祖だった事になる。

18世紀のマナーの常識のひとつ。
「食べれないものを口から出したら、床に投げ捨てる事」
嘘みたいな、本当である。

さて、21世紀。
皆がよくやる 「かんぱ~い!」でグラスをカチン。
いいレストランでは、やらないほうが良いそうです。 覚えておきましょう。
あ、持ち上げるまではOKだそうです。

で、やっとスターターです。
アスパラガスの冷たいスープ、スパイシー・クリーム添え

薫り高いアスパラガスのスープの真中にスパイシークリームが浮かんでいる。
さて、何のスパイスが使われているでしょう? と質問。
あーだ、こーだ、と言いながら、正解はクミン。
クミンのほかに、アーモンドの食感も感じられる。

アスパラガスのうんちく。

フランスでアスパラガスがよく食べ始められたのは、17世紀のルイ14世の時。
彼の愛人のマダム・マンテノンが「アスパラは愛を誘うの」と言ったからとか。
で、彼女の気を引こうと、王が必ず用意したとの事。
それ以降「愛を誘うベジタブル」として、一般に普及していったそう。
日本人の私たちには、へぇ~!と思う事だが、フランスではアスパラはちょっとエロい野菜とされていたわけ。

「春という発情の時期のせいなのか、その形のせいなのか。指でつまんで食べる様は淫らだ」と。

19世紀の女子校ではアスパラを食べる事が禁じられていた。その理由は、「淫らな事を想像するから」だって。そんな事考える大人の方が、よっぽど淫らな気がするんですが、、、。

最後の話を聞いて、思わず「日本だったら、若い娘はマツタケが食べれないって事ですね。」とポロリ。ハッ! 高尚な(?)話題の最中に、なんと場違いな発言!もぉ、ワタシッたら! 

手元に一枚の絵が回ってくる。エドワード・マネが描いた、アスパラの絵。
アスパラが1本描かれている、有名な絵。私でもみた事がある。
ここでも、うんちくがひとつ。
この絵が、思ったより高く買い取って貰ったマネは、お礼にもう一枚アスパラの絵を描いたそう。巨匠も最初はひかえめだったのね。

メイン登場。 お腹空き過ぎ。
鶏肉とお米のパスタとワイルド・マッシュルーム。
特別な餌を与えた育てた鶏。胸肉は、今まで味わった事のないほど柔らかな風味豊かなお味。あっさりソースは、しょう油が少し使われていた。

一枚の写真。女性が何かを収穫している。
さて、これはなんでしょう? 誰も正解できない。
「スパゲッティーの木」だって。
そんな嘘みたーい、と思ったら、やっぱり嘘だった。
イギリスのBBCが4月1日のエイプリルフールにニュースで流した映像。
「スパゲッティーの収穫が始まりました。改良に改良を重ね、現在では同じ長さに成長するようになりました。」と大真面目のコメント。放送後に局には、問合せの電話が殺到したという。いかにもイギリス人のやりそうなユーモア。彼らのユーモアは、時にブラック過ぎて、殴りたくなる時もある。要注意国民である。

デザートは、こだわりのミルフィーユ。
パイは、テーブルに出す30分前に焼き上げる。だから、パリパリ感がそんじょそこらのものではなかった。あまりにシンプルで、気持ち少しがっかりだったが、今までで一番美味しかった。

出されたワインも最初は白で、メインは赤。全部飲み干したかったけれど、車で来たので少しだけ。しょうがない。

会の最後に、質問と感想。
会の進行の事とか、観光客だったら興味を持ってくれるか、とか。
若い世代には、ちょっと重たいかもしれないが、うんちく好きの中年層・熟年層には意外と楽しい気がする。かくいう私も、楽しかった。

あれ以来、アスパラを見るたび、妙に納得している私である。
by suzume-no-oyado | 2007-04-30 07:55 | お料理
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