ミスター・フレッドの楽しみ

春が来ると、思い出すのがミスター・フレッドの事。
私が、今までの人生の中で出会った、たった一人の、、、、。

幽霊である。

イギリスで住んでいた町の近くに、スチュアート・クリスタルと言う
老舗のガラス・メーカーがあった。
かの有名なタイタニックの中でも、そこの装飾品が飾られていたと言う。

ある穏やかな春日よりの土曜の午後。
オーダーしていたワイン・グラスを取りに行った。
店には私を含めて5、6人の客しかおらず、レジの周りで会計の順番を待っていた。
その時である。

カーン、カン、カン、カン、と誰かがグラスを遠くから投げたような音が。

一瞬、みんな、ギョッとしてお互い顔を見合わせた。

「何?!」
店の奥には、誰もいない。
「なんか、気味悪い~。」みな、ざわざわ。

一人の男の人が音の方に行ってみた。
すると、ディスプレイしてあったテーブルセットの下にワイン・グラスがひとつ落ちていた。

「なーんだ、テーブルから落ちただけだよ。」と。
「でも、風なんかないのになぁ。」
そう言って、落ちたグラスをテーブルに戻そうとして、「えっ?!」
落ちてたグラスは、そのテーブルのセットとは別の物だった。

「じゃあ、これは、どこから来たの???」

店員さんが調べてみたら、3メートルくらい離れた場所に飾られていた物だった。

「スプーキー(気味悪ーい)!」と、客がざわめいていた時に、
レジの中の店員同士が、
「また、ミスター・フレッドの仕業だわ。」
と言ったのを私は聞き漏らさなかった。
なんか、もうワクワク。
「ミスター・フレッドって誰?」

彼は、スチュアート・クリスタルの創始者の弟だそう。
時折、現れては、店内のディスプレイを動かして遊んでいるんだって。

本当か嘘かは知れないが、明らかに不思議な現象だった。

霊の存在は信じてる方だったけど、どこかで「ほんとかな?」という気持ちもあった。
でも、生まれて初めての不思議な体験に、やっぱりいるのかも。
その日は眠れなかった。

イギリス人は幽霊がお好き。
どんな小さな町にもゴースト・ストーリーやゴースト・ツアーなんかもあったりする。
でも、日本と根本的に違うのは、ドロドロとしてない。
ハリー・ポター(ポッターではないのよ、ほんとは)にでてくる幽霊を思い出して欲しい。
恨みつらみで悪さをする恐いゴーストというより、ちょっとひょうきんで、自然な存在。
例えば、行きつけのパブのビールが忘れられず、時折飲みにでてくる奴とか。

私が渡英する前、夫が借家を探してた時のひとつの物件もそうだった。
畑の中の一軒家のそのうちには、先住人がいるという。
「アー、別に悪さをする訳じゃないんですよ。あそこの階段を行ったり来たりする程度です。」
と、大家さん。

彼は、別の家を借りた。

「ルーム・メイトが幽霊なんて、洒落になんないよ。」
by suzume-no-oyado | 2006-04-09 06:09 | 暮らし
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